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東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)134号 判決

原告 有限会社柿木荘

右代表者代表取締役 中塚和朗

右訴訟代理人弁護士 藤川成郎

被告 荻窪税務署長 權田 進

右訴訟代理人弁護士 伴 義聖

右指定代理人 石黒邦夫

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六〇年二月二七日付けでした原告の昭和五八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

2  被告が前項と同日付けでした原告の本件事業年度の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件各処分等の経緯

原告の本件事業年度の法人税について、原告がした確定申告、修正申告及び更正の請求、被告がした更正をすべき理由がない旨の通知処分、更正及び過少申告加算税賦課決定並びに右各処分に対する不服申立ての経緯は、別表記載のとおりである。

2  通知処分について

(一) 原告は、原告の前代表取締役で昭和五八年五月二〇日に死亡した中塚ヒサから、同人が所有していた東京都杉並区上井草一丁目一二八番地一、畑(現況宅地)、三四三平方メートル(実面積三四〇・〇五平方メートル)及び隣接する同所同番八、宅地、七四・二六平方メートルの各土地(以下併せて「本件土地」という。)の遺贈(以下「本件遺贈」という。)を受けた。

(二) 原告は、本件事業年度中である昭和五八年一二月二一日、中塚ヒサの相続人である中塚和子及び中塚昭子に対し、同人らの本件遺贈に対する遺留分減殺請求に対する価額弁償として、各五〇〇万円あて(計一〇〇〇万円)を支払った。

(三) 次いで、原告は、中塚ヒサの相続人である中塚孝子に対し、同人が本件事業年度中にした本件遺贈に対する遺留分減殺請求に対する価額弁償として、昭和五九年五月一七日付けの契約に基づき、同月三一日に一〇〇〇万円を、同年九月二一日に二〇〇万円(計一二〇〇万円)をそれぞれ支払った。

(四) さらに、原告は、同様に中塚ヒサの相続人である中塚鐵也に対し、同人が本件事業年度中にした本件遺贈に対する遺留分減殺請求に対する価額弁償として、昭和五九年六月二二日に東京家庭裁判所において成立した調停に基づいて、一八〇〇万円を支払うことになった。

(五) 原告は、右の(三)、(四)の計三〇〇〇万円の価額弁償により本件遺贈による受贈益が減少し、原告の本件事業年度の所得金額が別表記載の修正申告(以下「本件申告」という。)の額よりも三〇〇〇万円減少することになるとして、同表記載のとおり更正の請求をしたところ、被告は同表記載のとおり昭和六〇年二月二七日付けで更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。

(六) しかし、右の三〇〇〇万円の価額弁償は昭和五九年度に合意されたものであるが、遺留分減殺請求は本件事業年度中にされたものであるところ、遺留分減殺請求権は形成権であり、その行使の意思表示により遺留分の限度で遺贈が失効して遺留分権利者が遺贈の目的物に対する所有権を取得するものであって、しかも、その効力は相続開始時に遡るものであるから、本件土地の受贈益中右価額弁償金に相当する三〇〇〇万円は本件事業年度に遡って生じなかったものとして、右の受贈益から控除されるべきであり、本件通知処分は違法である。

3  更正及び過少申告加算税賦課決定について

別表記載の更正(以下「本件更正」という。)は、本件土地の価額を過大に評価した結果、所得金額を過大に認定した違法があり、これを前提とした同表記載の過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)も違法である。

4  よって、原告は、本件通知処分並びに本件更正及び本件賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(本件課税処分等の経緯)の事実は認める。

2  同2(通知処分について)のうち、(一)ないし(五)の事実は認め、(六)は争う。

原告は、請求原因2の(三)、(四)記載の中塚孝子及び中塚鐵也に対する価額弁償金相当額合計三〇〇〇万円を本件土地の受贈益から控除すべきであると主張するが、原告は、遺留分減殺請求に対して本件土地の一部を返還することによりこれに応じたわけではなく、価額弁償によってこれを免れたのであるから、結局原告が本件土地を取得したこと自体には何ら変動はない。そして、価額弁償した額は、その支払が確定した事業年度の損金に算入されることになるところ、右の三〇〇〇万円の価額弁償は、本件事業年度末においては未だ確定していなかったのであるから、本件事業年度における損金には算入されるべきではない。したがって、原告の更正の請求は理由がない。

3  同3(更正及び過少申告加算税賦課決定について)は争う。

三  被告の主張

1  原告の本件事業年度の所得金額

(一) 申告所得金額 三一二三万二九六二円

右金額は、本件申告の所得金額である。

(二) 土地受贈益計上漏れ金額 五七〇三万六一二八円

原告は、本件申告において、本件土地の取得価額を四九二八万〇八四八円と評価し、これから請求の原因2の(二)の価額弁償金合計一〇〇〇万円を控除した三九二八万〇八四八円を本件遺贈による本件土地の受贈益の額と計算しているが、本件土地の取得価額は後記2のとおり一億〇六三一万六九七六円と評価すべきであるから、これから右価額弁償金一〇〇〇万円を控除した九六三一万六九七六円が、本件遺贈による本件土地の受贈益の額であり、その差額である五七〇三万六一二八円が計上漏れであったことになるので、右金額を本件事業年度の所得金額に加算すべきである。

(三) 所得金額 八八二六万九〇九〇円

原告の本件事業年度の所得金額は、右(一)の申告所得金額に右(二)の土地受贈益計上漏れ金額を加算した八八二六万九〇九〇円となる。

2  本件土地の評価

(一) 更地価額

遺贈による法人の土地の取得は、法人税法二二条二項所定の「無償による資産の譲受け」に当たり、その取得価額の算定は、一般に公正妥当な会計処理の基準に照らし、減価償却資産の取得価額の評価に関する法人税法施行令五四条一項七号イを類推適用して、「その取得の時における当額資産の取得のために通常要する価額」によるべきであるところ、右の「通常要する価額」とは通常の取引がされた場合に成立すると認められる客観的価額であるから、右価額を公示価格を基に算出すると、昭和五八年一月一日を基準日とする昭和五八年地価公示において本件土地の近隣地である東京都杉並区上井草二丁目七〇番七号所在の土地が標準地の一つとされている(以下、右土地を「基準地」という。)ので、基準地の更地としての一平方メートル当たりの公示価格三三万九〇〇〇円に、本件土地の昭和五八年分の一平方メートル当たりの固定資産税評価額八万一〇〇〇円を基準地のそれである九万円で除して得た割合である〇・九を乗じて本件土地の一平方メートル当たりの更地価額を算出すると、三〇万五一〇〇円となり、これに本件土地の面積合計四一四・三一平方メートルを乗じて本件土地の自用地としての価額を算出すると、一億二六四〇万五九八一円となる。

(二) 減価要素

(1) 本件土地の利用状況

本件土地の地形は別紙のとおりであり、そのうち、東京都杉並区上井草一丁目一二八番一の土地の東側二三〇・三一平方メートル(位置関係は別紙記載のとおりである。以下「甲土地部分」という。)は原告所有の鉄筋コンクリート造二階建共同住宅(以下「本件共同住宅」という。)の敷地として、西側の一〇九・七四平方メートル(位置関係は別紙記載のとおりである。以下「乙土地部分」という。)は原告所有の木造平屋建住宅(以下「本件木造住宅」という。)の敷地としてそれぞれ利用され、また、同番八の土地七四・二六平方メートル(位置関係は別紙記載のとおりである。以下「丙土地部分」という。)は、本件共同住宅の敷地の一部及び通路として利用されている。

(2) 甲土地部分

甲土地部分は本件共同住宅の敷地であるが、本件共同住宅はもと中塚ヒサの所有であったもので、原告は昭和五七年五月に当時の本件共同住宅の固定資産税評価額七一七万九四〇〇円に一〇〇分の七〇の割合を乗じた五〇二万五五八〇円でこれを買い受け、同時に本件共同住宅の敷地部分について権利金等の授受なくして借地権(以下「本件借地権」という。)の設定を受けて、以後、本件遺贈を受けるまで月額二七万五〇〇〇円の地代を支払って中塚ヒサから賃借していた。

ところで、借地権の設定された土地の評価においては、借地権価額を控除するのが一般であるが、これに対応して、法人が権利金等の授受なくして借地権を取得した際には、法人税法二二条二項に基づき権利金相当額につき認定課税を行うのが原則である。しかし、当事者の一方又は双方が法人である場合において、当事者間の借地契約により、権利金の授受に代え、その使用の対価として、権利金の授受を伴う場合の地代よりも高額な、更地価格に対応する相当な地代を支払うこととしているときには、経済的観点からみれば、地主は右の相当な地代を収受することによって当該土地の資本的活用を十分図ることができるのであるから、当該当事者間では、借地権部分に相当する経済的価値の借地人への移転はなく、更地価格と同様の価値が依然地主の許に残されていると考えることができる。そこで、このような場合には、借地権の価額を零と評価して、権利金相当額の認定課税を行わないこととする(法人税法施行令一三七条は法人が他人に借地権を設定して土地を使用される場合について、この理を確認したものであるが、経済的合理性に基礎を置く法人税法の解釈上、この理は、法人が借地権の設定を受けた場合においても変わるところはない。)とともに、借地人が借地を譲り受けた場合においては、その価額は、当事者間で借地権価額に相当する経済的価値の移転がないため、自用地としての価額(更地価額)と評価されることになるものである。

原告は、被告の調査に対し、本件借地権設定に際しては、本件共同住宅の賃貸収入を重視し、相当な地代として月額二七万五〇〇〇円を算定したものである旨の昭和五九年一〇月一八日付け申述書を提出したことなどから、被告は、本件借地権は相当な地代の支払があるものと認定し、税務上、本件借地権設定当時、原告において資産計上すべき借地権の取得がなかったものとしたので、甲土地部分は、更地として遺贈されたものとして評価すべきことになる。

したがって、甲土地部分について自用地としての価額から借地権の価額を控除すべき理由はない。

(3) 乙土地部分

乙土地部分は本件木造住宅の敷地であるが、従前から原告が借地権を有していたものと認められるので、本件遺贈により原告はいわゆる底地部分のみを取得したものというべきである。

そこで、右(一)において算出した本件土地の一平方メートル当たりの更地価額三〇万五一〇〇円に乙土地部分の面積一〇九・七四平方メートルを乗じ、借地権割合を六〇パーセントとして乙土地部分の借地権価額を算出すると、二〇〇八万九〇〇五円となり、右価額は自用地としての価額から控除すべきである。

(4) 丙土地部分

丙土地部分は、甲土地部分及び乙土地部分と分筆されているものの、甲土地部分とともに本件共同住宅の敷地の一部及び通路として利用されてきたもので、甲土地部分と同様に評価すべきであり、自用地としての価額から減額すべき理由はない。

(三) 本件土地の価額

以上、本件土地の価額は、右(一)の自用地としての価額から右(二)の(3)の乙土地の借地権価額を控除した一億〇六三一万六九七六円と評価すべきである。

3  本件更正及び本件賦課決定の適法性

本件更正は、別表記載のとおり五八二六万九〇九〇円を所得金額と認定したもので、右1の(三)の本訴での被告主張額の範囲内であるから適法であり、これを前提とした本件賦課決定も適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(原告の本件事業年度の所得金額)のうち、(一)(申告所得金額)は認める。(二)(土地受贈益計上漏れ金額)のうち、原告が本件申告においてした本件土地の遺贈による受贈益の計算内容は認め、その余は争う。

(三) (所得金額)は争う。

2  同2(本件土地の評価)について

(一) 同2の(一)(更地価額)のうち、昭和五八年の基準地の公示価格及び固定資産税評価額並びに本件土地の固定資産税評価額は認め、その余は争う。

(二) 同2の(二)(減価要素)の(1)(本件土地の利用状況)は認める。

(2) (甲土地部分)のうち、甲土地部分が更地として遺贈されたものとして評価すべきことは争い、その余は認める。本件のように個人が法人に借地権を設定する場合につき法人税法施行令一三七条を準用する旨の規定はないから、本件に同条を適用するのは誤りである。

(3) (乙土地部分)のうち、前段は認め、後段の価額の評価は争う。

(4) (丙土地部分)は争う。

(三) 同2の(三)(本件土地の価額)は争う。

3  同3(本件更正及び本件賦課決定の適法性)は争う。

五  原告の反論

1  本件土地の評価方法

本件土地は、本件遺贈が遺留分減殺請求により少なくとも部分的に効力を失ったことにより共同相続財産に復帰したのであるから、本件土地の評価に当たっては相続財産の評価方法によるべきである。被告主張のように本件土地の評価は通常の取引価額によるべきだとしても、相続税法は相続により取得した財産の価額は時価によるとしており、時価とは通常の取引価額と異なるものではないから、相続財産の評価方法によるべきである。したがって、本件土地の評価は、路線価である一平方メートル当たり一八万五〇〇〇円を基礎として計算されるべきである。

2  甲土地部分の評価

(一) 貸宅地

甲土地部分に対する本件借地権の設定当時、賃借人である原告に税務上資産計上すべき借地権の設定がないものとされたとしても、甲土地部分が建物所有を目的とする賃貸借の目的に供されたことによって土地の利用制限が生じたという法的かつ経済的事実は否定できないところ、昭和四三年一〇月二八日直資三-一三の相続税財産評価に関する個別通達(相当な地代を収受している貸宅地の評価について)は、相当な地代を収受している貸宅地(宅地の所有者が借地権者にその借地権の目的となっている宅地を使用収益させている場合の宅地をいう。)は自用地としての価額から二〇パーセントを減額して評価すべきであるとしているので、甲土地部分も相当な地代を収受している貸宅地として、自用地としての価額からその価額の二〇パーセントに相当する金額を控除した金額により評価すべきであり、後記5の本件申告における貸家建付地としての一八パーセントの減価はその範囲内のものであるから正当である。

(二) 貸家建付地

仮に、甲土地部分について税務上借地権価額を評価しないというのであれば、甲土地部分は本件借地権設定直前と同一の状況にあるものとされるべきである。しかして、本件共同住宅は、原告に譲渡される以前から原告が旧所有者(当初は中塚ヒサの夫であった中塚繁太郎であり、同人死亡後は中塚ヒサである。)から賃借して第三者へ転貸していたものであるから、本件共同住宅の原告への譲渡前(すなわち本件借地権の設定前)は中塚ヒサ所有の土地上の同人所有の建物が第三者に賃貸されていたことになるところ、昭和三九年四月二五日直資五六の相続税財産評価に関する基本通達二六(貸家建付地の評価)は、貸家建付地(宅地の所有者が建物を賃貸している場合の当該建物の敷地をいう。)について自用地としての価額から建物賃借人の建物賃借権に基づく建物の敷地に対する使用権の価額として一八パーセントの価額を控除すべきであるとしているのであるから、甲土地部分については自用地としての価額から一八パーセントの減価がされるべきである。

3  乙土地部分の評価

本件土地付近の非堅固建物所有のための借地権割合は七〇パーセント程度である。

乙土地部分にある本件木造住宅は本件遺贈前から原告の所有で、原告が第三者に賃貸しているものであるから、乙土地部分も貸家建付地というべきであり、甲土地部分と同様自用地としての価額から一八パーセントを控除した価額により評価すべきである。

4  丙土地部分の評価

丙土地部分は、北側が乙土地部分上の貸家及び丙土地部分の西側(乙土地部分の北側)に隣接する東京都杉並区上井草一丁目一二八番四の土地上の貸家に通じる通路であり、南側は甲土地部分と同様本件共同住宅の敷地であるから、このことを考慮して減額されるべきである。

5  本件申告における評価

原告は、本件申告において、正面路線価一八万五〇〇〇円を基礎として本件土地の南側二七九・七一平方メートルについては奥行価格逓減率〇・九六を乗じ、甲土地部分及び乙土地部分が不整形地であること並びに乙土地部分東側及び丙土地部分北側には通路部分があることから本件土地全体について二〇パーセントの減額をし、さらに貸家建付地として本件土地全体について一八パーセントの減額(借地権割合六〇パーセント、借家権割合三〇パーセントとして計算)をして本件土地の価額を四九二八万〇八四八円と算出した。

6  原告の受贈益

原告は、請求原因2の(二)ないし(四)記載のとおり合計四〇〇〇万円の価額弁償をしたが、これは遺留分権利者が遺留分減殺請求により取得した持分を右価額で買い受けたものであり、原告の本件遺贈による受贈益は右価額を差し引いた九二八万〇八四八円にすぎない。

六  原告の反論に対する被告の認否及び再反論

1  原告の反論1(本件土地の評価方法)は争う。

原告は、本件土地の取得価額について相続財産の評価方法によるべきだと主張しているが、遺留分減殺請求がされても原告が本件遺贈により本件土地を取得したことには変わりないし、相続財産の評価方法における市街地の宅地の評価に用いられる路線価が、取引によらない偶発的な課税原因から生じる相続税の性格等に照らし、公示価格の七〇パーセント程度の評価を目標として算定されていることは公知の事実であるから、経済的合理性に基礎を置く法人税の財産評価において右の路線価を用いるのは適当でない。

2  同2(甲土地部分の評価)について

(一) (一)(貸宅地)のうち、相続税の財産評価に関する個別通達の存在は認めるが、その余は争う。

右の個別通達は、相続税の財産評価に関するもので経済的合理性に基礎をおく法人税法においては適用の余地はないものである上、右の個別通達自体も第三者による利用制限を考慮したものであって、借地契約の当事者間における本件遺贈においては適用の余地がない。およそ借地契約を締結した土地所有者が後日借地人に当該土地を譲渡した場合、これを全体として経済的観点からみれば最終的には更地を譲渡したということにほかならないが、本件はまさにそのような場合である。

(二) (二)(貸家建付地)のうち、相続税の財産評価に関する基本通達の存在、及び本件共同住宅が原告に譲渡される以前から原告が旧所有者から賃借して第三者へ転貸していたものであることは認め、その余は争う。

右の基本通達も相続税の財産評価に関するもので法人税法においては適用の余地はないものである上、仮に右基本通達によってみても、建物賃借人の敷地利用権は建物所有者から独立したものではなく建物所有者の敷地利用権に従属したものであるところ、本件においては被告の主張2(本件土地の評価)の(二)(減価要素)の(2)(甲土地部分)に述べたとおり借地契約の当事者間では本件借地権の経済的価値はないものとされたのであるから、本件共同住宅の賃借人の敷地利用権の経済的価値も、借地契約の当事者間においてはないものとして取り扱われるべきである。また、本件共同住宅は既に本件遺贈前の昭和五七年五月に宅地の所有者である中塚ヒサから原告に譲渡されていたものであるところ、原告はそれ以前から旧所有者から賃借してこれを借家人に転貸していたものであるから、借家人の存在による甲土地部分に対する何らかの制約は原告自身の選択によったものであり、甲土地部分の価額の評価において減価要素として斟酌すべきではない。

3  同3(乙土地部分の評価)のうち、本件木造住宅が本件遺贈前から原告の所有で原告が第三者に賃貸していることは認め、その余は争う。

原告は、乙土地部分を貸家建付地として評価すべきだと主張しているが、中塚ヒサが生前原告に賃貸していたのは乙土地部分であって同土地上の建物ではないから、乙土地部分は貸家建付地に当たらない。

4  同4(丙土地部分の評価)は争う。

原告は、丙土地部分はその一部が通路となっている本件共同住宅の敷地として減価されるべきだと主張しているが、本件共同住宅の敷地に関しては税務上資産計上すべき借地権はないとされるべきことは甲土地部分について述べたとおりであり、また、本件土地の一部が通路として使用されていても、その通行者は本件土地及び丙土地部分の西側隣地上の原告所有の貸家住宅の居住者等であり、本件土地及び丙土地部分の西側隣地を最有効利用するためであるにすぎないから、通路ないし道路として評価上価値を減ずべき理由はない。

5  同5(本件申告における評価)は争う。

原告は甲土地部分及び乙土地部分が不整形地であると主張するが、本件土地の地形は別紙のとおりであるところ、本件土地と各隣地又は道路との境界はいずれも整然と画されており、その利用に不都合を来すような不整形地とは認められず、このことは、乙土地部分の北側境界線をその東側に位置する道路に向かって延長し、本件土地を北側境界線とこの延長線により二分した場合に、そのいずれもが矩形の整形地に相当する四辺形となることや、現に原告自身貸家建物の敷地として有効に活用している状況からも明らかである。

6  同6(原告の受贈益)は争う。

請求原因に対する認否2に述べたとおり、原告は、遺留分減殺請求に対して本件土地の一部を返還することによりこれに応じたわけではなく、価額弁償によってこれを免れたのであるから、結局原告の本件土地の取得自体には何ら変動はないというべきである。また、原告主張の価額弁償額四〇〇〇万円のうち、三〇〇〇万円については、本件事業年度において考慮すべきでないことは、請求原因に対する認否2に述べたとおりである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  本件各処分等の経緯

請求原因1(本件各処分等の経緯)の事実は当事者間に争いがない。

二  本件通知処分の取消請求について

1  当事者間に争いがない事実

請求原因2(通知処分について)の(一)ないし(五)の事実は当事者間に争いがない。

2  原告の主張に対する判断

原告は、遺留分減殺請求権は形成権であり、その行使の意思表示により遺留分の限度で遺贈が失効して遺留分権利者が遺贈の目的物に対する所有権を取得し、しかも、その効力は相続開始時に遡るものであるとして、右1の事実に基づき、本件土地の受贈益中、請求原因2(通知処分について)の(三)、(四)の合計三〇〇〇万円の価額弁償に相当する部分は、本件事業年度に遡って生じなかったものとして本件土地の受贈益から控除されるべきであると主張する。

しかし、法人の遺贈による土地の取得は、法人税法二二条二項所定の「無償による資産の譲受け」に当たるものとして当該事業年度の収益となるところ、右1の事実によれば、原告は、本件遺贈に対する遺留分減殺請求に対して本件土地の一部を返還することにより応じたわけではなく、価額弁償によってこれを免れたのであるから、結局、本件遺贈による原告の本件土地の取得自体には何ら変動はない。したがって、遺留分減殺請求によっても原告の本件遺贈による収益自体には変わりはなく、価額弁償に要した額は損失として損金に算入すべきであるから、この点に関する原告の主張は失当である。

また、遺留分減殺請求については、遺産分割について相続開始時への遡及効を定めた民法九〇九条のような規定は存しないから、この点に関する原告の主張も失当である。

もっとも、価額弁償の額は、右に述べたとおり損金として扱われることになるが、本件では、右1に当事者間に争いがない事実として判示したとおり、遺留分減殺請求がされたのは本件事業年度中のことであるから、遺留分減殺請求の効果が意思表示により直ちに生じるものであるとすれば、右の三〇〇〇万円の価額弁償も本件事業年度の損金として認めるべきであると考える余地がないではない。しかし、遺留分減殺請求があっても、受遺者は目的物を返還するか、価額弁償によりこれを免れるかを選択することができ、価額弁償によることになった場合でも、遺留分減殺請求の時点では価額弁償の額も未確定であるのが通例であるから、その時点で課税関係に変動を生じたものと考えるのは適当ではなく、その支払が確定した時点で当該事業年度の損金に算入することとするのが相当である。しかして、右1の事実によれば、本件では右の三〇〇〇万円の価額弁償は、本件事業年度末においては未だ確定していなかったと解されるから、本件事業年度における損金には算入されるべきではない。

3  そうすると、原告の更正の請求を根拠づける事由があるとは認められず、結局、本件通知処分の取消請求は理由がない。

三  本件更正及び本件賦課決定の取消請求について

1  当事者間に争いがない事実

被告の主張1(原告の本件事業年度の所得金額)の(一)(申告所得金額)の事実、(二)(土地受贈益計上漏れ金額)のうち、原告が本件申告においてした本件土地遺贈による受贈益の計算内容は当事者間に争いがない。

2  本件土地の評価

(一)  本件土地の自用地としての価額

本件土地の自用地としての価額の評価について、被告は、昭和五八年一月一日を基準日とする昭和五八年地価公示における本件土地の近隣地である基準地の更地としての一平方メートル当たりの公示価格三三万九〇〇〇円に、本件土地の昭和五八年分の一平方メートル当たりの固定資産税評価額八万一〇〇〇円を基準地のそれである九万円(右の公示価格及び固定資産税評価額についてはいずれも当事者間に争いがない。)で除して得た割合である〇・九を乗じて本件土地の一平方メートル当たりの更地価額を三〇万五一〇〇円と算出し、これに本件土地の面積四一四・三一平方メートルを乗じて得た一億二六四〇万五九八一円であると主張する。

法人の遺贈による土地の取得は法人税法二二条二項所定の「無償による資産の譲受け」に当たり、その取得価額の算定は、同条四項に従い一般に公正妥当な会計処理の基準に照らし、減価償却資産の取得価額の評価に関する法人税法施行令五四条一項七号イを類推適用して「その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額」によるべきであるところ、右の「通常要する価額」とは通常の取引がされた場合に成立すると認められる客観的価額と解される。

しかして、地価公示法に基づき公示される地価(公示価格)は、都市及びその周辺の地域等について自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる一平方メートル当たりの価格とされており(同法一条、二条参照)、実際にも時価に近いものであるが、通常は、標準地の時価をある程度下回るものであり、その意味で控え目な評価であるとされていることは公知の事実であって、〈証拠〉によれば、この点は本件土地についても妥当するものであることが窺われる。

したがって、基準地の公示価格及び固定資産税評価額並びに本件土地の固定資産税評価額により本件土地の公示価格相当額を算出するという右の被告主張の方法は、一応の合理性を有するものというべきであり、これによって算出された右の被告主張の価額は特段の事情のない限り本件土地の取得に通常要する価額を上回ることのないものということができるところ、右の特段の事情の存する旨の主張、立証はないから、本件土地の自用地としての価額は被告主張のとおり一億二六四〇万五九八一円とみることができる。

これに対し、原告は、本件土地は、本件遺贈が遺留分減殺請求により少なくとも部分的に効力を失ったことにより共同相続財産に復帰したのであるから、本件土地の評価に当たっては相続財産の評価方法によるべきであると主張している。右主張の趣旨は必ずしも判然としないが、いずれにしても、原告は、遺留分減殺請求に対しては価額弁償をすることにより本件土地の返還を免れたのであり、本件遺贈により本件土地の全部を取得したことには変わりはないから、本件土地が共同相続財産に復帰したことを前提として、相続財産の評価方法によるべきだとする右主張は理由がない。

また、原告は、本件土地の評価が通常の取引価額によるべきだとしても、相続税法は相続により取得した財産の価額は時価によるとしており、時価とは通常の取引価額と異なるものではないから、相続財産の評価方法によるべきであると主張する。しかし、相続税法二二条は、確かに相続により取得した財産の価額は当該財産の取得のときにおける時価によるとしているものの、相続税の財産評価における基本通達において市街地の宅地の評価の際の基準とされている路線価は、取引によらない偶発的な課税原因から生じる相続税の性格等に照らし、公示価格の七〇パーセント程度の評価を目標として算定されているものであることは公知の事実であるから、経済的合理性に基礎を置く法人税における本件土地の通常の取得価額の算定に当たり右の路線価を用いるのは適当ではない。

(二)  減価要素

そこで次に、右(一)の本件土地の自用地としての価額から、本件土地の評価に当たり減価要素として考慮すべき事由について検討するに、本件土地の地形が別紙のとおりであり、そのうち、甲土地部分は本件共同住宅の敷地として、乙土地部分は本件木造住宅の敷地としてそれぞれ利用され、また、丙土地部分は本件共同住宅の敷地の一部及び通路として利用されていることは当事者間に争いがないので、以下、右の各土地部分ごとの減価要素及びその他の本件申告での減価要素の当否について順に検討する。

(1) 甲土地部分

ア 甲土地部分は本件共同住宅の敷地であるが、本件共同住宅はもと中塚ヒサの所有であったもので、原告は昭和五七年五月にこれを買い受け、同時にその敷地部分について権利金等の授受なくして本件借地権の設定を受けて、以後、本件遺贈を受けるまで月額二七万五〇〇〇円の地代を支払って中塚ヒサから賃借していたが、本件借地権は、その設定当時、相当な地代の支払があるものとして税務上原告には資産計上すべき借地権の取得はなかったものとされたことは当事者間に争いがない。

イ ところで、借地権の設定された土地の評価においては、借地権価額を控除するのが原則であるから、本件でも甲土地の自用地としての価額から本件借地権の価額を控除すべきかどうかが問題となる。

しかして、右のように借地権の設定された土地の評価において、借地権価額を控除するのは、借地法により借地人の地位が厚く保護される結果、経済的には、借地人は相当の価値を有する借地権を取得することになる反面、当該借地の価額はいわゆる底地価額にまで下落するといった、地主から借地人に対し当該土地のうち借地権部分に相当する経済的価値の移転があったと見るべき経済的実態が存在するからであるが、かかる経済的実態を反映して、借地権を設定する場合には、借地権部分に相当する経済的価値の移転の対価というべき権利金その他の金銭を授受することが広く行われていることは公知の事実であり、したがって、かかる慣行が存在するにもかかわらず、法人が権利金等の授受なくして借地権を取得した際には、法人税法二二条二項に基づき権利金相当額につき認定課税を行うのが原則である。

しかしながら、当事者の一方又は双方が法人である場合において、当事者間の借地契約により、権利金等の授受に代えて、権利金の授受を伴う場合の地代よりも高額な、当該土地の自用地(更地)としての経済的価値との比較において相当な地代を支払うものとされているとすれば、経済的には、当該地代の資本還元額が当該土地の自用地としての価額と同等となるから、地主の許に当該土地の自用地としての価額がそのまま残されていて、借地人に対する借地権部分に相当する経済的価値の移転はなかったものと見ることができる。したがって、このような場合には、税務上、当該土地の借地契約は、権利金等の授受がなくとも、正常な取引条件でされたものというべきであり、借地人が法人である場合においても資産計上すべき借地権の取得はなかったものとして、右の認定課税を行うべきでないことになる。なお、法人税法施行令一三七条は、法人が他人に借地権等を設定して土地を使用される場合について、右のことを定めた規定であり、逆に法人が借地権の設定を受ける場合については、格別の規定は存在しないが、法人税法上、法人が借地権の設定を受ける場合についてもその扱いを異にすべき理由はなく、同様に右の理が妥当するものと解すべきである。

しかして、原告が本件共同住宅の敷地である甲土地部分について権利金等の授受なくして本件借地権の設定を受けたこと及び本件借地権は、その設定当時、相当な地代の支払いがあるものとして、税務上資産計上すべき借地権の取得はなかったものとされたことは、右アのとおりであるところ、このように税務上資産計上すべき借地権の取得はないとされた土地を、後に地主から借地人が譲り受けた場合には、第三者との間で成立する通常の取引価額とは異なり、その価額は更地価額によって評価すべきことになるのは当然であり、したがって、甲土地部分については本件借地権が設定されていたものの、その取得価額の算定に当たって自用地としての価額から借地権の価額を控除すべきではない。

これに対し、原告は、本件借地権の設定当時、原告に税務上資産計上すべき借地権の設定がないものとされたとしても、甲土地部分が建物所有を目的とする賃貸借の目的に供されたことによって土地の利用制限が生じたという法的かつ経済的事実は否定できないとして、相当な地代を収受している貸宅地の評価についての相続税財産評価の個別通達に従い、自用地としての価額から二〇パーセントに相当する金額を控除した金額により評価すべきであると主張している。

しかし、仮に右の個別通達の評価方法が法人税の財産の価額の評価においても基本的に妥当するものだとしても、右の個別通達は、第三者による利用制限を減価事由として考慮したものであって、本件遺贈のような借地契約の当事者間での当該土地の譲渡には妥当しないものであるから、原告の主張は失当である。

ウ また、原告は、甲土地部分は相続税財産評価に関する基本通達二六の貸家建付地として自用地としての価額から一八パーセントに相当する金額を控除した金額により評価すべきであるとも主張している。

しかし、仮に右の基本通達の評価方法が法人税の財産の価額の評価においても基本的に妥当するものだとしても、右の基本通達は、借家人による敷地の利用制限を減価事由として考慮したもので、借家人の敷地利用権は建物所有者の敷地利用権に従属したものであるところ、本件においては借地契約の当事者間では本件借地権の経済的価値はないものとされたのであるから、本件共同住宅の賃借人の敷地利用権の経済的価値も、借地契約の当事者間においてはないものとして取り扱うべきである。また、本件共同住宅は、原告がその旧所有者である中塚ヒサから譲り受けたものであるが、その譲受以前から中塚ヒサから賃借して借家人に転貸していたものであることは当事者間に争いがないから、本件共同住宅の借家人の存在による本件土地の利用に対する何らかの制約は原告自身の選択によったものというべきであり、減価要素として斟酌すべきではない。したがって、原告の右主張も失当である。

(2) 乙土地部分

乙土地部分が本件木造住宅の敷地であり、従前から原告が借地権を有していたものであることは当事者間に争いがないから、本件遺贈により原告はいわゆる底地部分のみを取得したことになり、乙土地部分の取得価額の算定に当たっては借地権の価額を控除すべきであるところ、借地権割合については、特段の事情について主張、立証のない本件においては六〇パーセントとみるのが相当である。

そこで、右(一)において算出した本件土地の一平方メートル当たりの更地価額三〇万五一〇〇円に乙土地部分の面積一〇九・七四平方メートルを乗じ、借地権割合を右に述べたとおり六〇パーセントとして乙土地部分の借地権価額を算出すると、二〇〇八万九〇〇五円となるから、右価額を乙土地部分の自用地としての価額から控除すべきである。

これに対し、原告は、乙土地部分についても貸家建付地として一八パーセントを控除した価額により評価すべきであると主張するが、前記の基本通達は宅地の所有者が建物を賃貸している場合の当該建物の敷地の価額の評価に関するものであるところ、本件木造住宅が本件遺贈前から受贈者である原告の所有で原告が第三者に賃貸していたものであることは当事者間に争いがなく、右通達の予定する場合ではないことが明らかであるから、原告の右主張は失当である。

(3) 丙土地部分

丙土地部分が甲土地部分とともに本件共同住宅の敷地の一部及び通路として利用されてきたことは当事者間に争いがない。そのうち、本件共同住宅の敷地部分については甲土地部分と同様に自用地として評価すべきである。通路部分についても、一般に通路ないし道路であることを理由とする減価は第三者による利用制限を考慮したものであるところ、弁論の全趣旨によれば、本件ではその通行者は本件土地及び丙土地部分の西側隣地上の原告所有の貸家住宅の居住者等であり、本件土地及び丙土地部分の西側隣地を最有効利用するために通路とされているにすぎないことが認められるから、通路ないし道路として評価上価値を減ずべき理由はない。

(4) その他の本件申告での減価要素の当否

原告は、本件申告において、本件土地の一部について奥行価格逓減率を乗じて評価したものと主張するが、本件土地の評価に当たり路線価方式によるべきではないことは右(一)に判示したとおりであるところ、奥行価格逓減は、路線価方式が路線に面する標準的な画地を有する宅地の価格(路線価)を基として評価する方式であることによる評価の修正であるから、本件ではその適用の前提を欠くものである。そして、弁論の全趣旨によれば、本件土地の奥行きが、その間口に比し、若干長いことが認められるが、これまでに述べた本件土地の利用状況及び右(一)に認定の自用地としての価額が控え目のものであることを勘案すると、右事実はこれを減価要素とするまでもない。

また、原告は、本件申告において、甲土地部分及び乙土地部分を不整形地として評価したものと主張するが、本件土地と各隣地又は道路との境界はいずれも整然と画されており、その利用に不都合を来すような不整形地とは認められず、このことは、現に原告自身貸家建物の敷地として有効に活用している状況からも明らかであるから、右評価も採用することができない。

さらに、原告は、本件申告において、乙土地部分の東側についても通路として減価要素としたものであると主張するが、弁論の全趣旨によれば、丙土地部分と同様、その通行者は原告所有の貸家住宅の居住者等であり、本件土地を最有効利用するために通路とされているにすぎないことが認められるから、通路ないし道路として評価上価値を減ずべき理由はない。

(三)  原告の受贈益

原告は、遺留分減殺請求により遺留分の限度で遺贈は失効して遺留分権利者が遺贈の目的物に対する所有権を取得し、本件遺贈により原告が取得したのは残余の持分だけになったもので、価額弁償は遺留分権利者が取得した持分を新たに買い受けたものであるから、本件遺贈による受贈益は本件土地の価額から価額弁償の額を差し引いて計算すべきであると主張する。

しかし、遺贈に対する遺留分減殺請求に関する法人税の課税関係は、右二の2に述べたように解すべきであり、原告の右主張は失当である。

したがって、原告の本件土地遺贈による収益の額、すなわち本件土地の取得価額は、右(一)に述べた本件土地の自用地としての価額一億二六四〇万五九八一円から、右(二)の(2)に述べた乙土地の借地権価額二〇〇八万九〇〇五円を控除した一億〇六三一万六九七六円と評価すべきである。

3  本件更正及び本件賦課決定の適法性

本件土地の取得価額は、本件申告においては、右1に判示したとおり四九二八万〇八四八円であるとされていたところ、右2の(三)(原告の受贈益)に判示したとおり、一億〇六三一万六九七六円であると評価するのが相当であるから、両者の差額である五七〇三万六一二八円が計上漏れであったことになり、右金額を本件事業年度の所得金額に加算すべきである。そうすると、原告の本件事業年度の所得金額は、右1に判示した本件申告における所得金額三一二三万二九六二円に右の土地受贈益計上漏れ金額を加算した八八二六万九〇九〇円となるところ、本件更正は右金額を下回る金額を所得金額と認定したものであるから適法であり、本件更正を前提とする本件賦課決定も適法である。

四  以上によれば、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 石原直樹 裁判官 佐藤道明)

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